小鳥庵

旅人

ちいさな傷をバッグに詰めて
僕はひとりで旅に出た
必要なものだけを詰め込んだ
小さくて古いまあるいバッグ

旅の途中 僕はたくさんのものを見て
様々な人に出会い 時々転んで怪我をしながら
そして たくさんの新しいことを知った

旅は順調だった
僕の体は健康だったし
でもただひとつ
バッグの重さが気がかりだった
この小さな小さなバッグが どうしてこんなに重いのだろうと

遠い遠い、小さな町に辿り着いたとき
国境上の検閲所で
しかめつらした検閲官が
僕のバッグの中身を調べたとき
顔をしかめた

「これは何?」

その時僕は思い出した
旅のはじまりにバッグの底に詰め込んだまま
忘れていた古い 傷のことを

「これを持って、この町に入ることはできないよ。
 この町は、新しい人生を求める人だけが入ることのできる国だから。」

僕は迷った
この傷はぼくをとても悲しませたけれど
でもそれと同じくらい とても大切な思い出だったから

「さあ、どうする?」

僕は迷った。迷って、悩んで、
そして思い出したんだ

旅の始まりに僕が本当に求めていたのは何だったのか
それは、新しい人生の始まり という
夜明けの美しさだったこと

僕は決意した
悲しくて、痛くて、けれどとても大切なこの傷を、
今 捨て去ってしまおうと。

検閲官は微笑んで言った
「さあ行きなさい。あなたの旅路に、幸があるように。」

古傷を捨てたバッグはあまりにも軽くて
少しだけ心許なかったけど
でも僕は、わくわくしていた
新しい人生に言い知れぬ希望を描きながら
今度こそ、目的地のある旅を始めようとしていた。
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by hiromiwithk | 2006-05-23 01:05 | 詩 うた

うたえばいいさ                             とおくきこえる                             あまおとのように
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