小鳥庵

約束

オレンジ色の時計をみつけたら合図だよ
そのときには
必ず贈り物をもってもう一度君に会いに来る

エフはそう言って遠くに旅立った

その日からボクは
いつも下を向いて歩くようになった
必死になって探し始めた
オレンジ色の時計を

エフがボクに送ってくれる贈り物がどうしても欲しかったから

道が二つに別れたときには
前に進む前に必死で道の先に目を凝らした
もしもそれで
オレンジ色のカケラが道の上に見えたら
間違いのない道を選ぶことができるから

だけどそんな幸運はなく
ボクはいつもかなしい気持ちで一つの道を忘れるように別の道を進んだ


夏だったのか冬だったのかも思い出せないけれど
どこかのとおりで誰かがボクに「こんにちは」と声をかけた
あれはいったい誰で どんな顔をしたひとだったのだろう

知らない

だってオレンジ色の時計以外のことは
どうだっていいことだもの

ボクは相変わらず
下ばかり向いていた
エフに会いたかった
エフに会いたかった
一日も早く会いたかった

そうやって
幾日も幾日も歩き続けたある日の正午
靴が壊れた
一歩進むごとに砂や石が靴に紛れこんでうまく歩けなくなった

ボクは仕方なく寄り道をして
近くの町に入って靴の修理屋を探した
誰よりも早くオレンジ色の時計を見つけ出すためには
本当は少しだって寄り道なんかしたくなかったけれど

けれどそこで信じられないことが起こったのだ
壊れた靴を差し出したとき
驚いたことに
修理屋の話すことばが分からなかった

思いもよらぬ場所まで来ていた

久しぶりに顔を上げたとき
ボクはひとりぼっちになっていたのだった

理解のできない言葉の飛び交う雑踏のなかで
ボクのまわりだけポカンと穴が空いていた
誰にも頼ることのできないボクは
あの時ボクに「こんにちは」と声を掛けてくれた見知らぬひとのことが
たまらなく恋しくなって
気付いたら泣いていた


どうしてエフはボクに オレンジ色の時計のことなど探させたのだろう
もしもエフがボクにあんな命令を与えなければ
ボクは下なんか向いていなかったのに
あの人にこんにちはと微笑みを返して一人の友達になれたかもしれないのに

エフ、ボクはこんなにも独りぼっちだよ

エフに会いたいよ エフに会いたいよ エフに会いたいよ

大きな声で ボクは泣いた
 ひと にとって この世で一番つらい
 こどく を知った涙だった


永遠とも思えるような時間
泣いて 泣いて 泣いて
泣きつかれたボクは

瞼の向こうから差し込むオレンジ色の光に気付く

そっと開けた目に飛び込んできたのは
さえぎるもののない地平線に沈んでゆくオレンジ色の太陽だった
どんな悲しみも溶かすような暖かさで光るオレンジ色の大きな時計

ボクが見つけたもの
それは
世界中のどこにいても見つけることのできるほど大きな時計

約束どおり エフはボクに素晴らしい贈り物をくれた
それは
これからはどこにいてもエフに会えるのだという
力強い安心だった
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by hiromiwithk | 2006-06-14 23:39 | 詩 うた

うたえばいいさ                             とおくきこえる                             あまおとのように
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